孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 そういえば、この人は『そもそも結婚する気はない』と言っていたのだ。もしかすると人を好きになったことがないのかもしれない。

「……おい、なんか憐みの目で見てないか」

「いえ、そんな」

 ここぞとばかりに微笑む。私が穂高社長を上から見下ろせるなんてこの先もそうないだろう。

「とにかく、私の方から好きなときに離婚をしていいということなんですね」

 話を戻すと穂高社長は一瞬考えてから口にする。

「籍に傷をつけたくないなら恋人関係になるという手もある。障壁だった『彼氏』とは別れるんだろう?」

 無表情のまま言われて、私は首を振った。純也とはもちろん終わらせるつもりだけれど、穂高社長と付き合うというイメージは湧かない。

「恋人っていうのは好き同士がなるものでしょう? あなたとは違う気がする」

「そういうものか」

 やはり彼は恋愛に疎いらしい。私からすれば契約を交わさない恋人関係はお互いへの想いがないと成り立たないし、逆に結婚は気持ちがなくても成り立つ。偽装結婚なんて言葉もあるくらいだ。

「それに、お金をいただくならきちんと契約書を交わして、私も勤めを果たさないといけない」

「なるほど、勤勉なことだ」

 紙切れ一枚で結ばれた縁は、紙切れ一枚で断ち切れる。

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