孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 同衾しろ、と言われたときはどうなることかと思ったけど、本当に一緒のベッドに入るだけで、彼は私の存在に気づかないように熟睡している。

 拍子抜けというかなんというか……。こうやって隣で丸まって寝ているだけなら大型犬に添い寝されているのとさほど変わらない。

 思わず苦笑が漏れた。我ながらなかなかの順応性だ。恋人以外の、それもとびきりの美形が隣で寝ているという夢みたいな現実をあっさり受け入れているなんて。

 静かに寝息を立てる彼から視線を外し、私はそっと身を起こす。

 十帖を超える穂高壱弥の寝室は物が少ない。家具といえばクイーンサイズのベッドがひとつあるくらいだ。ワーカホリックな彼らしく、ただ寝るためだけの部屋といった感じだった。

 ベッドサイドにある仕切られた四畳半くらいのスペースは、ガラス扉が付いたクローゼットデザインのワードローブだ。スーツが並んだ棚も彼自身がまだ寝ているベッドも限りなくブラックに近いグレーで統一されている。重厚でスタイリッシュな部屋自体が大人の男性の色気のようなものを漂わせている気がした。

 足音を立てないようにベッドを下りて部屋を出る。廊下を進んでゲストルームに向かうと、段ボールに梱包された私の最低限の荷物が置いてあった。

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