孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 はあっとため息がこぼれた。短大卒業後に働いてきた会社から解雇通告を受けたのはつい三日前だ。業績悪化で傾いた基盤を立て直すためにまず社員を削減するということで、事務の私が真っ先に白羽の矢をたてられた。

 部長から「アルバイトでなら雇ってあげる」と言われたけれど、それこそいつ首を切られるかわからないし、実家に仕送りできるだけの稼ぎがないなら働いている意味がない。

「うう、お姉ちゃん、頑張るからね……」

 スマホで家族の写真を眺めながら気持ちを入れ直していると、ふと左肩に重みを感じた。

 となりに座っていたサラリーマンが眠りはじめたのか、寄りかかってきている。

 少しくらいなら気にならないけれど、この男性は完全に脱力しているようで、思い切り体重を預けられていた。

 お、重い。

 普段だったら不快に感じるとところだ。でも彼の場合、整髪料だか香水だかの爽やかで良い香りをまとっているうえ、よく見るとハッとするほど顔が整っている。

 イケメンだから特別、というわけでもないけれど、少しだけなら肩を貸してあげようと思った。

 日中の電車でこんなに熟睡してしまうのだから、相当疲れているのだろう。

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