狼とわたあめ
「今日は、来てないのかと思った」
先に言葉を発したのは黒田さんだった。
「あ・・・っと・・・今日は、甘いの食べたい気分じゃなくて・・・」
自然に振る舞いたいのに、声が勝手に尻すぼみになっていく。
「・・・・・・そう」
すぐに訪れる沈黙。
何か話さないと。いつも何話してたっけ私。
「久しぶりだな」
また先に口を開いたのは黒田さんだった。
「・・・・・・はい、お久しぶりですね」
「・・・・・・朔日参り、辞めたの?」
「いえ、行ってますよ。・・・ただ、朝早く起きれなくなっちゃって・・・会わなくなりましたね」
できるだけ明るく言ったつもり。
無理があったかもしれない。嘘だと気づかれているかもしれない。
でも、それでもいいかと思った。
「・・・・・・彼氏でもできた?」
っ、
これは今の私にはちょっときつい。
なんでそんなこと聞くの・・・なんて、黒田さんにはこっちの事情なんて関係ないもんね。
久しぶりに会った人へのごく普通の質問だから。
「ふふっ、秘密です」
今の私にできる精一杯の虚勢。
いるという嘘も、いないという真実もどちらも伝えたくなかった。
「・・・・・・」
黒田さんは無反応。