狼とわたあめ


連れて来られたのは、拝殿の裏。


もちろん誰もいなくて、祭りばやしが小さく聴こえる。今は私の心臓の音の方が大きい。


背が高い黒田さんは私を真正面から見下ろしている。


なんでも見透しそうな瞳をずっと見ていることはできなくて、黒田さんの胸元に視線を落とした。


「俺のこと、避けてるだろ」

「そんなことないです」

「ちゃんと俺の目見て言って」


無理。無理無理。


だって避けてますから。


でも黒田組の若頭にそんなこと言えるはずもなく、ゆっくりと視線を上げた。


「避けてないです」


ちゃんと黒田さんの目を見てはっきり言ってやった。


自分を守るためにどれだけでも嘘はつく。


「・・・・・・強情だな。素直になるまでその口塞いでやろうか」


じりじりと迫って来る黒田さんから、逃げるように後ろへ下がると拝殿の壁にぶつかり逃げ場を無くした。


おまけに両手で壁ドンされている。


至近距離で見つめられ、心臓がさらに暴れ出す。

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