狼とわたあめ
そして、去年の秋祭り。
黒田さんに会うために一人でわたあめ屋台に行くと、そこに黒田さんはいなくて、代わりに顔馴染みの付き人さんが店番をしていた。
「あ、こんちは。銀さん今、一服しに行ってるんすよ。あっちの方にいると思います」
そう言って付き人さんは神社の拝殿の方を指差した。
私は二人っきりになれると思って嬉しくて、足早に拝殿の裏の方へと足を進めた。
拝殿の角を曲がろうとした時、男女の姿が見えて反射的に壁に身を隠した。
恐る恐る裏を覗き込むと、そこには黒田さんとスタイルのいい女性。
その女性は黒田さんの首に手を回してピッタリと身体を密着させている。
そして、黒田さんへキスをしたんだ。
っ、
あまりに衝撃的な場面を目の当たりにして、私は一瞬その場から動けなくなった。
それでもすぐに立ち去らなければと一歩足を後ろに下げた時、パキッと地面に落ちていた枝を踏んでしまった。