フォーチュンクッキー
 やっと英語のノートが埋まると、次は数学に取り掛かる。

最終頁までめくっていると、ふっとノートに影が落ちる。



「で?あの太一さんって、だぁれ?」


 顔を上げると、興味津々のキラキラした瞳がもう目の前にあった。

ギクリと内心どこかあせって、落ち着かせるように水筒のお茶を一口飲む。


「え~っと…」

 どこから話せばいいものか。


 出会いから?

先生ってことだけでいいのかな?


でもそれだけじゃ納得してくれそうにない。


「太一さんがバイトしてる喫茶店で会って…、あたしの“先生”をしてくれてる人だよ」

 なんとか簡潔にまとめられたかなって、小さく自画自賛した。

だけど気づかされる。


 結局あたしと太一さんはそれだけなんだってこと。

 もし受験生じゃなかったら、こんなに会うことも話すことでさえもなかったんだ。


 じいっと何かを探るように見つめていた杏ちゃんが、ようやく笑った。


「好きなの?」


 心臓が、痛い。

ドキンと飛び跳ねて、思わず手も止まる。



 太一さんは、好き…。

でも、なんでこんなに胸が痛いのかわかんない。


 伝えたら少しは和らぐのかと思ったけれど、なにも変わらない。

むしろ、さらにドキドキしちゃって。
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