フォーチュンクッキー
「…っざけんなよ!」


 ひい、はあ、と肩で息をして、逞しい腕と大きな手のひらが包むボールをすばやく取り返す。


 細かくボールを床に打ちつけて、そのままゴール手前で持ち直し網に投げ入れた。

はずだったのに、ぬっと目の前からあの太い指が視線の端っこに現れて、ボールにかすかに触れた。


ガラガラと輪を回って、なんとか網の中へ吸い込まれていった。


 周りからは息を呑むような声が聞こえたけど、必死だったオレは無視して足を動かし始める。

滴る頬の汗を乱暴に手の甲でぬぐうと、ワイシャツの腕をまくって、センターラインに向かう広い背中を追いかけた。



 ボールを取られては取り返しの繰り返し。

点数なんて、今のオレには数える余裕なんてなかった。


 足がふらついて、さすがに限界を迎えると床に膝を着いた。


「…っはぁ、はぁっ」


 ぐらりと体を体育館の天井に向けて、大きく息を切らしていたオレに怜は近づいてきた。


「太一くん、もう終わり〜?」

 とかなんとか言ってるくせに、自分だって結構な息切れだ。

角ばった頬にだって、汗だらだらじゃないか。


 いってやりたいのは山々だけど、呼吸を整えるのに精一杯で声が出なかった。


「っせーよ」

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