フォーチュンクッキー
「戻りましたー」

 カウンターの中に入り、大きな荷物をドサリと小さなキッチンに置いた。


 あの開店早々にきたおじさん以来、客が来なくて暇になっていた。

カップを拭く数なんてたかが知れていて、ぼけっとしているオレにマスターは…


「ちょうどよかった」

 満面の笑みで、オレに月に一度のまとめ買いを頼んできたのだ。

そして、やっと今、マスターに頼まれていたコーヒーの粉や豆を仕入先からもらってきたところだ。



「お疲れだったな」

「………はい」

 量がかさばると、さすがのオレだって重い。

伝票刺しに慣れた手つきで、ちょっとくしゃくしゃになってしまった伝票を突き刺す。


「太一くん、ひさしぶり!」

「お久しぶりですね、いいカンジなんですか?」

 声をかけてきたのは、常連の競馬好きのオジサン。

競馬新聞を広げて、ペンは耳にかけているその姿はどこからどうみてもギャンブラーだ。


「いやぁ、参った参った」

 全然懲りてなさそうに、白髪が混じったグレーの頭をペシペシ叩いていた。

この様子からすると大損中といったところか。


 おじさんと笑っていると、何かに気づいたマスターがオレのエプロンを引っ張ってきた。

マスターと目があうと、くいっと顎で外を示された。


 それをたどると、そこには一人の女の子が窓ガラス越しにこちらをじいっと見つめている。


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