フォーチュンクッキー
 話も終わったのか、ベンチをすり抜けて太一さんがあたしたちの元へと近づいてきた。


 ど……、どうしよう!


 あたしが言葉に悩んでるのにも関わらず、杏ちゃんは一人楽しそうだ。

あたしの腕をべしべし叩いてくる。



 だけどあたしたちにたどり着く前に、太一さんは足を止めた。


「太一」


 さっきの女の人。


 確か…、二回ほど喫茶店に来たんだよね、アノヒト。

あたしの知らないところではきているのかもしれないけど。


 始めて会ったときはかわいいって思って、顔だけはものすごく覚えてた。



「サト、きてたんだ」


 太一さんの声に、また心臓が痛い。



 さっきまでドキドキと弾んでいた心臓が、今度はズキズキする。

痛みにこらえるように唇を噛んでいたら、杏ちゃんが「アレは?」って聞いてきた。



 そうだった、渡すものがあったんだ。

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