フォーチュンクッキー
 甲高いホイッスルと同時に怜は高く跳んだ。

同時にオレたちは一斉に走り出す。



 心臓がはち切れそうなくらいボールを追いかけて。

腰を落とし、体を張って、じりじりと力でのポジション争いは必死。

ボールの弾む重低音は、緩急混じりながら響く。


 周りは声援でうるさいくらいなはずなのに、オレたちは自然とコート内の声を聞き分けられていた。


「五番マーク!」

「リバウンド!!」


 声が声をかき消す。


たかがしれてるたった1ヶ月で培ったオレの体力はすでに切れかかっていた。


 何度も汗をぬぐうけど湿度と運動量が奪っていく。



 練習通りなんていくわけがないんだ。


「太一!」

 怜の声に気付いて素早くボールを受けとる。


 パシンッ!と痛いくらいの痺れと伝わってきて、目の前にはだかる対戦相手。

さすが県大会常連なだけあった。



 後半にはいってから差は開いていき、接戦だった点数も今は10点を追いかけていた。


 押し黙るように睨みあう。


 オレはちらりと視線を右にずらし体重を移動させる。

その寸前で相手がずれたのを見逃さず、左に抜けた。


素早くボールを床に打ち付けてゴールまで走る。



 すり抜けた瞬間だった。

抜いた相手の残った右腕にあたった衝撃に耐えるために足を踏み込んだ。


だけど、いつものバッシュと床が擦れる音は空を舞う。

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