フォーチュンクッキー
 そのあご髭も紳士に見えるような言葉に、彼女は瞳を輝かせた。

マスターはその女の子の肩を優しく叩いて、店内へ促す。


「……ったく、なんだってんだよ」

 どうせ出てくるなら、マスターが最初から来ればよかったのに。

なんて思いながら、それ以上何も言わないその二人の後を、オレは仕方なくついていった。



 彼女は競馬好きのおじさんの隣にちょこんと座り、物珍しそうに店内を見渡していた。

世間は始業日っていう日のこんな時間にフラついているなんて。


 オレの肩にも満たない彼女の身長だし、顔も丸っこくてマセているようにも全然見えない。

小学生くらいか……?


「コーヒー飲める?」

 マスターの問いに彼女は、無言のまま首を横にふった。

確かにガキがコーヒーを好いているなんてあまり聞かない。


「じゃあカフェオレにしようか。甘めに作るからね」

 その優しい提案に、彼女はにっこり微笑んだ。


 マスターの性格は温厚だし優しいんだけど、この言動は異常って思えるくらい彼女には温かい。

知り合いなのか…でも、窓越しに見つけた彼女を「さあ?」と肩をすくめていたし。


 そんな疑問だらけのオレをお構いなしに、マスターは、さも当然のように笑ってきた。


「よろしくね、太一」

 すかさずオレの肩にぽんと手を置いて、そのまま奥に下がってしまった。


「えっ、ちょ…っ」

 先ほどの買い物してきた荷物をチェックし始めている姿を見て、もう何も反論はできない。

文句なんて言えるわけもなく、しぶしぶ作り始める。



 細長いグラスにコーヒーを流し込み、氷とミルク、更にガムシロップ。

ブラックを好むオレとしては甘すぎるくらい。

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