フォーチュンクッキー
 チビ助が泣き止むと、どうしようもない恥ずかしさが一気に襲ってくる。

 そんなチビ助も、一度だけ見上げてきたから目があった。

でもすぐに、再び汗臭いオレの腹に顔を埋めてしまう。


 微かに響く足音で、オレたちは一緒になってびくびくしてた。

「帰ろうか?」

 チビ助は小さく頷いた。




 外に出れば相変わらず苦しいほど暑くて、さっきまでの緊張感すら溶けてしまった。


 近すぎず、遠すぎないこの半歩分の距離。

 どうにか埋められないか。

 そればっかり考えてしまっていた。


 そんなゲンキンなオレはどうすることもできず。


「勉強するぞ」

 返事を待たず、喫茶店に向かうことにした。


 チビ助がいやだなんていうわけない。

 チラリと後ろをみると、やっぱりまだ頬がピンク色で伏し目がちだ。


 足をピタリと止めてみる。


「ひゃあっ」

 予想通り勢いよく背中にぶつかってくるチビ助は、鼻をさすりながら見上げてくる。

 少し困ったように眉をひそめてた。

「あぶないですよ、太一さん」


 いつものその顔にほっとしてしまった自分がいた。

 オレが笑ったら、つられるようにチビ助の顔も緩んだ。


< 212 / 506 >

この作品をシェア

pagetop