フォーチュンクッキー

「未来…ありがとな」

「え?」


 思っても見なかった言葉に、あたしは金縛りにあったみたいに動けなくなった。

はにかんだように哀しさも含ませた雛太の瞳は、夕日が微かに照らす。

「アイツと、がんばれよ?」


 …アイツ。

 雛太のいってるのは太一さんだ。



「最近の未来みてたら分かる。オレだってずっと見てきたんだから」


 なんだかあたしのほうが恥ずかしくなってきた。


「だから、もう友達だからな?」


 テストの日、消しゴムを貸してくれて優しい雛太は、蛍光灯を逆光にオトナに見せた。

Yシャツから透き通ったその広くなった肩も、本当は気づいてた。


 杏ちゃんだって、話してるとわからないけれど、細い腕や体の凹凸がはっきりしてきている。


 あたしだけ、時が止まったように感じてた。



「…うん、ごめんね、雛太…」

 緩んだ涙腺は、もう止められなくて。

「しょうがないヤツだなぁ」

 そういって雛太はぽんぽんと、あたしの頭を撫でてくれた。



 たくさん感謝してる。


 自分の募る『スキ』しか知らなかったから。

 誰かの思う『スキ』を初めて教えてくれたのは、紛れもない雛太だよ。


「お土産、渡してきなよ」

 その優しい声に、あたしは頷くしかできなかった。

「明日はお休みだから、明後日な?」

 確認するように覗き込まれる。


 慌てて涙を拭って笑って見せた。

「うん、また明後日ね」

 重い荷物を背負って、あたしは家とは反対の商店街に足を進めた。

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