フォーチュンクッキー
 いつもの席の隣にドンと置かれた荷物。

 軽々動かしちゃうその力に、やっぱり男の人なんだって気づかされる。


 改めてドキドキしちゃうんだ。



「太一、おつかれ」

「うっす」

 短く挨拶した太一さんは、またいつもどおりに細長いグラスを出した。

 あたしのカフェオレを作ってくれる。

そうわかっているから、たまらずほっぺたが緩んだ。


「ぷっ」


 何かに堪えるように、マスターは噴出す。

 わかんなくてじいっと見ていたら、可笑しそうに笑ってきた。

「どうしたんスか」

 太一さんの疑問に同感だ。

「二人とも、わかりやすいよね」

 なんことかわかんなくてぽかんとしていたあたしをよそに、太一さんはビクっと肩を震わした。


 ばつが悪そうなこの表情は、…照れてるのかな?


「うんうん、若いっていいね~」

 くるりと背を向けたマスターは、なんだか意味ありげに笑ってる。


 どうしたんだろう、っていうあたしの考えはお見通しみたいで、太一さんはパチンと額をはじいてきた。


「いったぁーい」

 じんじんする額に慌てて手をやると、ちょっぴり不機嫌そうな太一さんがグラスを差し出してきた。

 そこにはあたしの大好きな、甘めのカフェオレ。


 痛いけど、なんだか疲れたあたしの体は求めるようにストローに飛びついた。


「おいし~」

 あたしのこぼした感想に、太一さんは「ったく、わかってねーなぁ」ってぶつぶつ呟いていた。


 こうなったらきっと教えてくれないから、気にしないようにしてる。

 今はとにかく飲み干したくてたまらなかった。


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