フォーチュンクッキー

「だ、ダメでした…?」

 恐る恐る視線を上げると、呆れを通り越したのか太一さんの目尻が下がりきっていた。


「チビ助らしいよ」

 それは褒め言葉なのか、ダメだしなのか、どちらにしても、笑ってくれたならあたしは十分だ。


 なんだかやっと帰ってきたんだ、って気がして、安心してしまった。




 そんなあたしの背後で勢いよく扉が開かれた。


 少し荒い息。

 振り返ると、その姿を逆光でシルエットを作り出す。


 まぶしくて目をこらして確認するのに必死だった。


「未来…っ!」

 その声に、ようやく気づく。


「ヒナ…?」

 はあ、はあ、と苦しくなるような息遣いに、なぜだか悪寒がした。



 予感とか、虫の知らせって気づけないものなのか。

 神様はそういうのを、いつだって教えてくれないんだ。




「い、急いで…っ!!」

 雛太の強い瞳は、あたしを凍てつかせる。

 あたしの元へと駆け寄ってきた雛太は、小さな一枚の紙切れを渡してきた。


「どうしたの、雛太?」

 体を句の字に曲げて、手は膝がついたまま息を整える雛太に、あたしはのんきにも尋ねる。

 キッと睨み上げられると、思わずクチをつむいだ。


「いいから…!おじさんが…っ」


 その言葉にゾクリと背筋に何かが通った。

< 221 / 506 >

この作品をシェア

pagetop