フォーチュンクッキー
ゆっくり手のひらの紙をみると、そこには、無情にも近くの大学病院の名前と住所が書かれていた。
どうしよう、手が震える。
握り締めることも、破り捨てることもできなくて、ただ固まったようにそこにいた。
「ほら、いくぞ!」
そんなあたしを動かしてくれたのは、太一さんだった。
大きな手で震えるあたしをぎゅっと握ってくれた。
「マスター、ちょっと抜けます」
エプロンをくるっとまとめてマスターに手渡していた。
「気をつけて」
さっきまでの和やかな雰囲気もどこかへ、緊迫した空気がぴしぴしと張り詰める。
引っ張られるように商店街の前の大きな通りに出て、タクシーを拾って乗り込む。
太一さんはずっとあたしの手を離さないでいてくれていた。
不安とか、ショックとか、まだ実感なくて、頭が真っ白だった。
雛太の言葉の意味も、太一さんやマスターの強張った顔も、あたしにはわからない。
でも、確かに手は震えていて。
流れる景色を見ていたら、わりかし近かったその大学病院に到着した。
押し出されるようにタクシーを降りると、目の前の大きな建物が周りの暗さを取り込んでいる。
まるで闇そのもののように見えて仕方なかった。
「いくぞ」
あったかい大きな手でもう一度握り締めてくれて、あたしはどうにか足が動いた。
裏口から入ると落ち着いた声で太一さんが受付の人と話してくれる。
「さっき運ばれたと思うんですが…、片瀬です」
どこもかしこも独特の薬品のにおいで埋め尽くされていて、どこか寂しさをかんじさせる。
ぼんやりと長く続く廊下を見ていたら、頭にぽんと重みがかかった。
「大丈夫。こっち」
柔らかい笑顔が降ってきて、コクンとただ頷いた。