フォーチュンクッキー

 足の長さが違うから、太一さんに追いつくのに精一杯。

いつもは歩調を合わせてくれるけど、今だけは太一さんのほうが焦ってるみたいだった。



 ナースステーションから少し離れた病室の前で、ピタリと足が止まる。

 入り口には六人分のネームプレートがあったけど、一つだけ真っ白だった。


 ガラリと引き戸を開けると、ちょうど食事を終える時間だったのか、カチャカチャと食器の音が聞こえた。


 一番奥だけ、囲うようにカーテンが敷かれていた。

 ドクンドクンと心臓が音を立てて、ゆっくり近づく。


 背中を押されながら、小さな音を立ててゆっくり開いた。


「おとう…さん…?」


 そこには深いしわが休息をとるように眠るお父さんが横たわっていた。

 青あざがしきりに見え隠れして、額には大きなガーゼが当てられている。


「チビ助!?」

 ガクンと膝の力が抜けて座り込んでしまうところを、太一さんが抱きとめられる。

 カーテンの中に引きこまれ、小さなパイプ椅子に座らせられる。


 お父さんの顔が急に歪んで、下まつげがやけに重くって瞬きが難しかった。


「大丈夫だよ…」

 背後からなだめるような優しい声に、ようやく涙が溢れていたことに気づいた。


「お父さん…?未来だよぉ?」

 痛々しい姿をみて、ようやく現実があたしに襲い掛かってきた。


 このままいなくなっちゃうんじゃないかって錯覚さえ起こしそうで。



 一人にしないで。

 どこにも…、行かないで?

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