フォーチュンクッキー
 祈るようにごつごつと太い指を並べた手を、包むように両手で握っていた。

頬にその手を当てると温かかった。


 その瞬間、ピクンと指が動く。


「…未来?」

 懐かしいお父さんの声に、たまらず涙が更に零れてしまった。

「おとうさぁんっ」

 ベッドに乗り上げて抱きつくと、「いたたたっ」と痛そうにお父さんは目をぎゅっと瞑ってしまった。

 あたしは慌てて体を離す。

「ご、ごめんねっ」

 覗き込むと、片目だけ瞑って優しく微笑んでくれた。

「未来は相変わらずそそっかしいなぁ」

 いつもののんびりとした口調が聞けて、やっと心臓も落ち着いてきてくれた。


 お父さんがいる。

 ずっとお父さんと過ごしてきたんだもん。

 急にいなくなったら、困るでしょ?


 声にならない声を伝えるのに必死で、あたしは引っ込んだはずの涙を抑えきれなかった。

 心配かけないように目元を拭って一緒に笑った。



「未来が帰ってくると思って、ケーキを買いにいったんだ」

 突然の切り出しにきょとんとしていると、太一さんもパイプ椅子をどこからか取り出してきた。

 首しか動かないお父さんは、ちょっとだけ右手を上げる。


「そうしたらアパートの階段をね、転がり落ちちゃったんだよ」

 想像するだけでも背中が痛くて仕方なかった。

 スタントマンになった気分だよ、ってお父さんが笑って言えてるのは、生きてるからだ。

「おかげで腕と足は骨折だし、首はムチウチ状態だ」

「もう、驚かせないでよー…」

 困ったように笑うお父さんに、あたしは大きなため息と一緒に不安を吐き出した。

そうしたらちょっとだけすっきりした。

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