フォーチュンクッキー
「太一くんも悪いね」
隣にいる太一さんの肩がビクっとはねるのが見えた。
あたしも視線をずらすと、少しだけ照れていた。
「え、いや、そんな…」
こんなに口ごもる太一さんは滅多に見れないから得した気分。
あたしの頭は、まだ少し足が浮いているような気分だったけれど、だいぶ現実に追いついてきた。
無事でよかったっていう思いだけが今のあたしを支える。
旅行の話もしたかったけれど、遮るように静かになり始めた病室に女の人の声が響いた。
「面会時間はそろそろですよー?」
おそらく看護士さんなんだろう。
そそくさと立ちあがる太一さんに続く。
「未来、入院の手続きとかあるから、明日も来てほしいんだ」
少し目をしぱしぱさせたお父さんに、小さく頷いた。
急に大きな怪我したんだから、そりゃ、体もクタクタだよね。
「うん、どうせお休みだから荷物ももってくるよ」
じゃあね、と小さく手を振ってカーテンをくぐる。
そこにはもうベッドに横たわるおじさんたちしかいなくって、廊下もちょっとだけ薄暗かった。
さっきは闇の塊に見えた病院を出ると、とっぷり陽が落ちていて星がきらきらしていた。
ひんやりする風が半そでの中からすり抜けて、身震いするのを堪える。
きょろきょろ辺りを見渡した太一さんはぽつりと呟く。
「バスあるかな?」
小さなロータリーに向かおうとする太一さんのシャツを思わず握っていた。