フォーチュンクッキー

 天気もいい昼下がり。

 あたしは約束どおりお父さんの入院する病院まで来ていた。


「お父さん、パジャマはここでいい?」

「うん、あと…」

 お父さんの言葉を遮るように、ついこのまえ旅行に使っていたバッグから写真たてを抜き取る。

「これでしょ?」

「ああ」

 嬉しそうに満面の笑みを広げていた。


 お父さんは、凛子さんを誰よりも好きなはず。

 あたしにはまだちょっぴりはずかしいけど…、『愛してる』って言葉がしっくりきた。


 いつもそうだけど、凛子さんのことになると一段と優しくなるんだもん。


「…二・三ヶ月も病院かぁ」

 あたしはポツリと呟いて、昨夜の一人ぽっちの家を思い出した。

涙は出なかったけど、なんだかなんにも考えられかった。


 今朝、あわててお父さんの荷物をまとめ始めたくらいだ。


「年末には帰れそうだから、それまでがんばってな?」

 心配かけたくないから元気よく頷く。


「それにしても太一くんもよくやってくれて…。ありがたいなぁ」


 お父さんの口から急に太一さんの言葉が出て、あたしがドキリとしてしまった。


 実は、荷物が重いだろうからと学校も遅刻して一緒に荷物を運んでくれた。

 朝から会えたので、あたしの心臓はやけに高鳴ってる。


「そ、そうだねー…」

 曖昧に答えると、いつのまにか手のひらがぐっしょり汗をかいていた。

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