フォーチュンクッキー
 少し皺になってしまっていたけれど、用意していた一枚の紙切れをおじさんに手渡した。


「これ、オレの連絡先です。何かできることがあれば」


 書いておいたメモをおじさんに渡すと、なにも言わず微笑んで受け取ってくれた。

もう一度会釈して、静かに病室を出た。



 少しあわただしそうに、看護士さんたちが行きかう中、パタパタと足音が近づいてきた。


「太一さんっ」


 あわてて追いかけてきたチビ助だった。

心配そうな顔は、きっとオレのことだろうな。


「さっきのは嘘じゃないよ、今、学校では準備中。 まぁ、自主早退も事実だけどな」

「そ、そうなんですか…」


 オレの言葉に少し安心したようだった。

見上げてくるチビ助の透き通るような瞳が揺れる。


 ……ああ、やばい。

いつの間にか、愛しくて小さな背中に手を回して腕に閉じ込めた。


「た、太一さんっ?」

 焦って上ずったチビ助の声は、今のオレには心地いい。


 今ごろなんだよ。



「あー…。緊張したぁ…」

 心臓が頭にあるみたいだ。

どくんどくんと、一気に全身に血が巡るようで、呼吸を今思い出した気さえしてくる。


 そんな中、かすかに腕の中でちび助が震えた。


< 235 / 506 >

この作品をシェア

pagetop