フォーチュンクッキー
「お、お邪魔します…」


 二度目のこの部屋は、初めて来たときよりも広く感じた。

 あの時は他に人もいたからだろう。


「散らかってますけど……」

 慌てたようにテーブルに広がる新聞紙やら、調味料やらをぱたぱたと片付け始めるチビ助。



 …あれから。

オレは病院を出て、そのまま喫茶店でバイトをしていた。

忙しいと暇の差がないくらいの店だから、オレがいつ行こうが構わない。


 その代わりバイト代もびびたるもんだけど。


 ようやく夏も終わりを告げようとするこの季節に似合う茜どき、約束どおりチビ助もやってきた。


 手には紙袋しか持っていなくて、どうやら病院から直接ここに向かってきたようだ。

当然、勉強道具なんて一切もっているはずもなく。


「何しに来たんだよ…」

 ため息混じりに尋ねたら、頬をピンク色に染め上げる。


「た…太一さんに…」

 小さな口をゆっくり動かしてつなぐ言葉をオレは止めた。


 だって、カウンター内でオレの後ろにいるマスターの視線が痛いんだ。

もちろんそれは、半笑いのものにきまってる。


「マスター…」

「いいよ、いっておいで」


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