フォーチュンクッキー
 オレはまだ呼んだだけなのに、答えが返ってきて驚いた。

チビ助がきてからいろいろ話したいことがあったんだけど…。


「この店は忙しくもないからね」

 それは商売人とってはよくないはずなのに、ってのはそっとしまった。


 何もいえなくなるくらいの優しい笑顔は、昔から変わってない。

ありがたいお言葉に甘えて、オレはチビ助の家へとやってきた。




 小さな台所に四人掛けのダイニングテーブル、少し離れたところに浮いたようなパソコンデスク。

敷居のむこうは和室で、たんすの前で布団が折り重なってるのが見えた。


 その和室で、一人寂しく夜を過ごしてるのが、容易に想像できてしまった。



 改めて部屋を見たけれど、本当に贅沢な家だなんてお世辞でもいえない。

それでもチビ助はこんなに素直なんだから、よっぽど愛されて育ったんだろう。


 なぜか、オレが嬉しくなった。


「あ、座っててください!お茶だしますねっ」

 世話しなく動き回るチビ助は、馴れた手つきでグラスを取り出した。

こぽこぽと音を立ててお茶を注ぐと、にっこりと差し出してくる。


 いつもはオレが出すから、変な気分だ。



「いただきます」


 そういってオレはチビ助を抱きしめて────



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