フォーチュンクッキー
 時間が過ぎるのはあっという間だ。

 一向に眠り続けるおじさんの病室をあとにしたのは、すでに太陽がみえなくなっていたころだった。


 再び自転車に乗りりこんで、冷たい風を切る。

後ろの網にまたがりオレの腰に腕を回すチビ助は、どこか機嫌がよさそうだ。


「太一さんっ、文化祭でなにやるんですかぁー?」


 きゅっと手に力がこもって、すこしこそばゆい。


 カラカラというタイヤの回る音と、風の音で聞こえづらいから、オレたちの声はいつもよりハキハキしていた。


「焼きそばとチョコバナナ!」

「えーっ?太一さんが作るんですかー?」


 覗きこみそうな勢いのチビ助の声に、思わず口ごもる。


期待に添えないし、何よりも危ない。


「いや……?」

 いつものトーンで答えたから、チビ助には聞こえたかどうかわからなかった。


「じゃぁ、怜さんはー?」


 ────は?

どうしてそこで怜の名前が出るのかわからない。


「なんでアイツが…っ!」

「ええ?聞こえないですよー?」


 いっそ、わざと聞きなおしてるんじゃないかとさえ疑ってしまう。


 何度も言わせんなよな…っ!

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