フォーチュンクッキー
 チビ助の住むアパートが見えなくなるところまで進むと、携帯電話に電源をいれる。

なんとなく彼女の前で携帯は開きたくない。

別にみられるのがイヤだとかじゃなくて、できれば目の前にいる相手との時間を大切にしたいから。


だけど、そんなオレを怒るように、みたことがない位の件数のメールが受信されている。


 すべて、サト。


『馬鹿太一!電話にでろっ!!』


 絵文字もない淡白な言葉が、何通もオレの携帯に入っていた。

すこし嫌な予感を背筋に感じながらかけなおす。


 パッとヘッドライトを浴びて、小さな路地に車が通りオレは端っこに自転車を寄せる。

街灯の下を颯爽と走っていったのは、この地域に似合わない赤い小ぶりな外車だった。


 それを横目に鳴り響いた電子音の後、意外にもすぐにサトは電話に出た。


「もしもし、サト…」

『太一の馬鹿!アンタ、今どこよ!?』


 いきなりの罵声に、オレは驚くしかなかった。


「ど、どこって……」

『んもーっ!とにかく急いで帰ってきなさいよ!』

 受話器の向こうで地団駄を踏むように、なにかガタガタ聞こえた。

 
「なんなんだよ、いったい…」

 中学からのよしみということもあり、サトはオレのことは気にかけることはあっても、あまりとやかく言うことはなかった。

だから、こんなサトの様子が信じられなかった。



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