フォーチュンクッキー
 そんなオレに気づいたのか、少し焦ったようなサトの声。

『まだわかんないの!?帰ってきてんのよ!』

「帰って、きてる…?」


 いまいちピンとこなかった。

だけど、オレにとって“帰ってくる”のはアノ人しかいない。


 ……まさか!


 携帯を閉じると、あわてて自転車を向きなおし来た道を戻る。


 思い出すのは、ここらでは見ないあの真っ赤な外車。

いやな予感でいっぱいだった。


 サトから連絡がきたってことは、家と学校じゃない。

店にはいかないはずだから…。


 同じ道なのに、スピードが違うだけでこうも景色が変わるのか。

じっとりと汗ばむくらい、オレの身体はぽかぽかと温まり始めていた。




 すこし古びた壁をもつ小さなアパート。

呼吸すら苦しいけれど、オレは立ち止まってなんていられなかった。


 一つの扉がうっすらと明かりを零すと、凛と突き刺すような声がオレの耳にも届く。


「太一いる?」

 似つかわしくないタイトなスーツを纏った女の後姿で、オレの大切な人がいるはずの扉に立ちはだかっていた。


 …やっぱり……っ!!


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