フォーチュンクッキー
 なんとか笑うと、戸惑う太一さんを見ないように足早に店を出た。


 会いたくていったはずなのに、目をあわすのも怖かった。


 太一さんのお母さんがどうしてあたしの家に来たのか、なんで一人暮らしなのか。

そういうこと全部全部聞きたいのに、どうしても切り出せなかった。


 言いたくても言えない気持ちは、少しだけ解る気がしたから。



 商店街を抜けてぼんやりすみれ色の空を眺めながら、夕飯どうしようかな、なんて考えていた。


「未来!」

 振り向くと、元気に手を振って声をかけてきたのは杏ちゃんだった。

大きめのトートバッグを肩に引っ掛けて、ぱたぱたと走ってやってくる。


「杏ちゃん!……これから塾?」

 杏ちゃんは重そうなかばんを肩に引っ掛けなおしている。

なんてあたしは身軽なんだろう、と少しだけ自己嫌悪。


「うん…、2学期で内申点がきまるからね」

 少し困ったように笑っていた。


 …そう。

あたしには今、考えなくちゃいけないことがあるんだ。


 お父さんも、太一さんも、マスターも巻き込んで、あたしのために勉強をしてくれてるんだもん。


「ねえ、杏ちゃん。今度の週末なんだけど、空いてる?」

「ああ、うん。夕方までなら大丈夫だけど」

 コクンと頷いてくれた杏ちゃんに、あたしはカバンから一枚の紙を手渡した。


「雛太も誘って、コレ行かない?」

 それは、病室でもらった太一さんの高校の文化祭のチラシ。

一人で見ず知らずの人並みに囲まれるほど、あたしは勇気がなくて。


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