フォーチュンクッキー
 俯いてしまったあたしに、ふと影が落ちる。


「未来は太一さんを選んだんだから……ちゃんと、太一さんを大切にしなよ?」

 優しい言葉は、すこし胸が痛い。

黙って頭をたらすように頷くと、うってかわってパシン!と痛いほど背中を叩かれる。


 元テニス部部長ということもあって、相変わらずそのスナップは健在だ。


「杏ちゃんってば、痛い~…っ」

 腕を伸ばして背中をこすってみる。

杏ちゃんは、夕日を背負うように笑ってくれた。


「ヒナは…あたしに、任せて?」

 少し俯いた杏ちゃんの顔は、なんだか切なくて、あたしはなんていっていいかわからなくて。


「じゃあね!」

 身を翻して、駆け足で去る杏ちゃんの背中を、あたしはただ見つめるしかできなかった。






 何かが、すこし変わるような……。


でも、いつもと同じ太陽が沈みかけていた。



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