フォーチュンクッキー
「えへへ、太一さんかわいー」


 本当にそう思ったんだ。

だけど、太一さんはさっきと打って変わって不機嫌そうに見つめてきた。


「どこがだよっ、オレは男だぞ!」


 顔をぷいっと背けるのに腕を放さないから、まだここにいていいってこと。

照れてるその姿に笑わずにはいられなかった。


「笑いすぎっ」

 笑うのを辞めなかったのに対してムキになった太一さんは、あたしの鼻をきゅっとつまんできた。

対して痛くもなかったのだけど、あたしは大げさに「いたーい!」って言ってみた。


 そんないつもみたいなコトで、どちらからともなく笑い出す。

さっきまで一人でピリピリしていたキモチは、どこか遠くの空に飛んでいってしまったみたいだ。


 笑い声が青い空に消えると、太一さんが腰を上げてすっと腕を広げる。



「……ほら、おいで」


 いつもは強引なくらいぎゅって抱きしめられる。

でもこれは……あたしから飛び込めってこと、だと思う。


 さすがのあたしだって分かるんだ。


 照れもあって戸惑っていたんだけれど、太一さんはじっと待つのみ。

小さな勇気を振り絞って、ほんの少し足を踏み出してゆっくり腕を伸ばす。


 そおっと頬を近づけ、広い背中に腕を回して触れる。

すると、応えるように長い腕があたしの背中を包んだ。



「案外、こういうのもいいモンだな」


 あたしの髪を愛でるように埋め、太一さんはそっと呟いた。



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