フォーチュンクッキー
 随分と家では一人だった気がする。

学校にも行かず、ただオレのことを理解してくれるマスターにひたすら甘えて。


「そう、だったんですか……」

 何かを飲み込むように、チビ助はぽつりと呟いた。

あまり驚いてはいなかったけど、すこし気まずそうだ。


 そんな姿を見て、自然と頬が緩む。


「でも、チビ助に会えてよかった」


 そういうと、当の本人は驚きで目を見開いていた。

照れくさいはずなのに、どうしても言わないといけない気がしていた。


 今ここで言わなくちゃ、きっと二度と言えない。

もう逃げたくないんだ。



「どれだけオレが恵まれているのかとか、一生懸命がんばることとか。
全部、お前から教わったんだよ」


 チビ助は、照れて頬をピンクに染めていた。


 毎日うざったく感じる学校も、友達も、本当はオレが逃げていただけなんだ。

逃げるより…悔しくても悲しくても、一生懸命のほうが後悔しない。


 オレはチビ助に会って、そう教えてもらった気がする。



 もう一口、ホットミルクに口をつけて息を呑む。

熱いはずのその液体は、緊張が高まるオレにはただ跡を残すように流れるだけだった。







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