フォーチュンクッキー
 驚きのあまり、固まってしまったチビ助の視線が……とても痛かった。


 こんな時期にいう話じゃない。

でも、直前まで言わないなんて選択はしてはいけない。


チビ助には、選択権がないのだから。


 呆然と固まってしまったチビ助に、イイワケのように話を続けた。


「母さんが帰ってきてから、ずっと言われてた。
今までほったらかしにしてたのにって、オレですら思った」


 家に帰るたびに、夜中まで話してた。


 オレは、最近になってようやく大事なものとか気づけたんだ。

それはなによりも、チビ助がいたからこそだと思ってる。


だから、離れるなんてオレには考えられなかった。


「でも…今のオレは、夢も目標もなくて……っ」


 一生懸命、毎日を生きるチビ助と対等なのだろうか。

そんな疑問が胸をくすぶっていた。


 目の前にある冷めかけたミルクを見ながら、唇が震えるのを隠した。

いつの間にかカップの中からは湯気も見えなくなってしまって、なんて続けていいかわからなくなっていた。


俯いたオレは、チビ助の顔を直視できなかった。


 なんて言葉を続けていいかもわかるわけがなくて、そのままお互い押し黙ってしまった。




 そんな沈黙を破ったのは、クスンと鼻をすする音。

ハッと顔をあげると、チビ助の瞳からはポロポロと大きな粒が頬を伝う。



< 287 / 506 >

この作品をシェア

pagetop