フォーチュンクッキー
 気が重くない、といったら嘘になる。

でもどこか、肩の荷がすこし降りたようにも感じてた。


 白い息が陽射しに溶けていくのをみて、後ろ向きになりそうな自分を奮い立たせる。

いつものように自転車にまたがり、頬が切れそうになるのを感じてペダルを踏み込んだ。


 気付けば、こうしてこの道を通るのもあと数ヵ月。

見えてきたオレの親友たちの背中が、ほんのすこし愛しくなる。


「え、オレにくれるの?」

「怜に、じゃなくて、怜・た・ち!」


 別れてもあまり気にさせない二人は、こうして見ていると本当に嘘みたいだ。

むしろ、本音を言い合ったあとだからもっと距離が縮んだのかもしれない。


 もちろん、友達として。


 車輪を勢いよく回して二人に追い付くと、きゅっとブレーキをかける。

その音に気付いたのか二人は振り向いてきた。


「おはよ」

 自転車から降りて、押しながらさらに近寄る。

だけどオレが挨拶しているのに、サトも怜もあんぐりと口を開いたまま。


「………なに?」

 何も言わないからオレが尋ねると、ぷぷっと笑いを含む怜。


「いつもにまして、爽やかクンだネ?」


「どういう意味だよ、それ」


 こういう顔のときはいつだってからかわれる。

巻いていたマフラーを口許を隠すようにひっぱりあげた。


 でもそんなオレをも見透かす怜は、満面の笑み。


「そんなこと恥ずかしくていえなぁい」

 きゃっ、と両頬を隠すように茶化す怜に、それをみて笑うサト。

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