フォーチュンクッキー
 怜の言葉に気付かされたのは、チビ助の存在。


 あんなちっちゃくて、単純で、バカみたいに素直な……


オレの、愛しい人。



「………あ。」


 しかし、そんな大切なチビ助をすっかり忘れてた。


 なにせチビ助の受験や、オレの進路に母さんのこと。

考えることがありすぎて誕生日を誰かと過ごそう、なんて思い浮かぶ隙がなかったほどだ。


「うわー、太一忘れてたんでしょ?ひどーいっ」


 一人焦り始めたオレに気づいたのか、からかうように笑ったサト。

ふふふ、と笑いながら口にした。


「あの娘にいっちゃおーっと」


 でも、オレはその言葉に、血の気が引いていった。



 オレの進路を告げたとき、涙をためて無理に作ったチビ助の笑顔。

どんなに振り払っても、こびりついて離れてくれない。



 いっそ嘘だといってなかったことにしたくなる。


 ……そうすれば。



「太一さんってば、ひどいですよーっ」

なんていいながらほっぺたを膨らました後……きっと、笑ってくれる。


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