フォーチュンクッキー
「……その悩んだ一番の原因が…っ」

 こんなに一生懸命怒っていて、太一さんを想っているんだ。


「あなたと一緒にいたいからってことを……っ」


 ぽろり、とキレイなその白い頬に一滴零れる。

あまりにもあたしとはかけ離れていて、その差が悔しいくらいで。


「そんなの、サトさんにはわからないじゃないですかっ」

「あたしにはわかる!……ずっと、見てきたんだから」

 たった一言だけど、それはあまりにも重くて。


 あたしには、太一さんを見かけて以来、ずっと心の中にいた。

でも、もっと近くで見ていたサトさんと太一さんの距離は、どうしたってあたしに敵うわけがないんだ。


 ぐすっと鼻をすすったサトさんは、深呼吸をして自分を落ち着かせていた。

なんだかあたしまで、目が痛いほど緩んできた。


「肝心なことを言わないのは、太一の悪い癖よ。
でもあなたには言った。……その意味が今のあなたにはわかるわけないわ」

 吐き捨てるように、ずっと向かい合っていたあたしに背を向けた。

あたしにはもう言葉がなくて、無駄に抵抗するしかできないでいた。


「それは…、太一さんがきめたことだから」

 ぽつりと呟くようなあたしの声。

でもサトさんは呆れることなく、それを拾っていた。


「そうね。あなたに会って太一は変わったから」


「……え?」


 ぱっと顔をあげると、さっきまでと同じ強い瞳。

違うとすれば、涙ですこし赤く染められたことくらいだ。


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