フォーチュンクッキー
 もう戻せない時間に後悔ばかり。

口にする言葉が見つからなくて押し黙っていたら、静かな店内に怜の落ち着いた声が響く。


「え?太一、留学するの?」


 さっきのサトとはまるで対照的な怜の言葉。

ただ、オレは小さな声で「……ごめん」とつぶやくしかできないでいた。



 だけど───


「なんで太一が謝るんだよ」


 怜は責め立てる訳でもなく、悲しみをあらわすわけでもなく。

ただ、きょとんと驚いていただけだった。


「……だって…っ!」


 親友、なんて言っておきながら、オレはこそこそと自分のことだけを考えていたのに。


 サトの言うことはもっともだと思う。

逆に、怜やサトがそうだったらと考えるだけで、自分が情けなくなる一方なんだ。


しかしその感情すらも見透かしたのか、ケラケラと笑い飛ばす怜。



「自惚れんな、ばーか」


 大きな身体を揺らして席に座りなおすと、カウンターに乗っけていたカバンを抱きかかえてにっこりと微笑んでいた。


「卒業したら離れるのなんて承知だよ。……まぁ、先にいっとけよな、とは思うけど」


 ――卒業。

その二文字が、オレを駆り立てたんだ。



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