フォーチュンクッキー
 ちらりと先ほどの、つらそうなサトの顔がよぎる。

また、あんな哀しそうな表情をさせてしまった。


「だってサトは…」

「んー…まあ、な。サトはちょっと違うから」

 思わず俯いたオレに、すこし困りながら、あとでいってやらなきゃな、と怜はつぶやいていた。

その真意を読み取ることは出来なかったのだけれど。


「で?この惨状は……大方、お前が蒔いた種なんだろ?」


 ニヤリと怪しく目を細める怜。

こんないつもみたいにされると、なんだかグルグルと頭の中で悩んでいた自分が馬鹿らしくなる。


 はあ、と観念したといわんばかりに大きなため息をついた。


「……そうだな」

 さっきの張り詰めたようなシーンを、ゆっくり思い出していた。



 雛太くんの想いも、サトの気持ちも……チビ助の言葉も。

すべて予想の範囲内。


「オレ、さ。チビ助に選ばせてやりたいんだよ」


 覚悟の上だった。

もしかしたらチビ助は、そういう選択をするかもしれない、と。


 ……なんともないふりをしてみせる。

そんな決意は、どうやら失敗してしまったが。


 しんみりとした店内。

マスターは気を利かせてずっと奥の部屋に行ったっきりだ。

商売にならないのは申し訳ないけど、オレの精神的にはとても助かった。


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