フォーチュンクッキー
 周りに振り回されっぱなしのチビ助だから。

「これはオレが決めたことだから……、その中であいつも選び取ってほしいんだ」


 母親が入院して、仕事に追われいたはずの父親までもが怪我で入院。

それこそ裕福とはいえず、小さな『勉強したい』という心の奥の願いすら口に出来ないでいたチビ助だからこそ。


「ずっと逃げてたオレが、言えることじゃないかもしれないんだけどな」


 自嘲も入ってた。だけど、これが本音。

視線を落として、ポタリポタリと静かに落ちる蛇口の雫を見つめてた。


 きっと怜ならわかってくれる。

そう思ってた。



「ああ、本当にな」


 ギィと椅子が錆を効かせた音を立てたと思ったら、ひんやりと冷たくかんじる怜の言葉。

一瞬信じられなかった。


 声も出なくてオレはゆっくり顔をあげると、そこにはまっすぐ見据える怜の瞳。

それは、ぐさりとナイフで胸を突き立てられるかのよう。


 自分でもわかっていることを肯定され、少なからず動揺を隠せなかった。


「お前はそれでいいかもしんないけどさ、そんな大切なことを未来ちゃんひとりに背負わせる気?」


 背負わせる?

オレはそんなつもり、微塵もない。


「……だから…」

 弁解しようと口を開いたけど、それより早く、怒りすらも感じる怜に遮られた。


「あのさ、そこに『太一の意志』はないわけ?」


「……っ!」


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