フォーチュンクッキー
 情けなくも翌朝自分で起きれず、仕事に出て行く前に母さんが布団を引っぺがしてきた。

やはりそこには見慣れたスーツ姿で、間もなく出発することがうかがえた。


「ひっどい顔!あたしの息子のはずなのになぁ」

 優しくもイタズラな笑顔で出迎えてきた。


 オレには、今日やらなくてはならないことがある。


 ぼーっとする脳内も、昨日のチビ助の泣き顔を思い出せば、痛いくらい目が覚める。

上半身を起こすと、母さんも安心したのかパタパタと足音を響かせて部屋を出て行った。


「朝食は適当に作っておいたからーっ」

 扉の遠くで、母さんの声がする。

パタン、と玄関ドアが閉まる音がして、多分ヒールをよたよたさせながら走って出勤したのだろう。


 とにかく、カーテンから漏れる朝日を浴びながら制服に着替えてリビングへ向かうと、いつもの食卓には簡単なサラダとハムエッグ。

そして、入れたてのコーヒーが用意されてた。


 ラップのかかった朝食の上には、メモ用紙が一枚のっかている。


「……ったく、みんな気にしすぎだろ…」

 くすぐったいような、温かさ。


『太一!オトコなら、ガツンと決めなさい!  母より』


 流れるような、どこか懐かしい文字が並んだそのメモ用紙を手に取る。


本当にオレは、どこまでもダサい男で……心配してくれる人たちに囲まれている幸せな男なのだ。


そう、感じずにはいられなかった。

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