フォーチュンクッキー
 寒さをしのぐようにざわめく教室に着くと、珍しく先に席についていたサトと怜。

真剣な二人の横顔に、なんだか入り込めない空気を感じていた。


 そのまま教室の入り口に突っ立っていたオレに気づいたのは、怜だ。


「太一、おはよ」

「……おはよ」

 挨拶を返したものの、オレの顔を見るなりサトはぷいっとそっぽを向いてしまった。

まあ、昨日の今日だし仕方ないのかもしれない。


 黙ってサトの後ろの席に着く。


「……そういうことだから。いい加減、腹くくれよ?」


 優しい声音とともに、怜はサトの柔らかい髪を撫でて少し離れた席へ戻っていく。


 一体何のことだかサッパリわからない。

けど、俯いたままの後姿にオレは何もいえなかった。


 騒がしい朝に、やけに静けさを感じてた。

こんなに口をきかない時は……あの『告白』以来だったから。


 もしもあのとき、怜がいなかったら、と思うと怖くなる。

きっとオレとサトには、こんな気まずい空気が延々と流れていたのかもしれない。


 想いにふけっていたオレの耳に、微かに消えるような声がした。


「……おはよ…」


 それは紛れもない、ずっと背中を向けただけだけど……


「ああ、おはよう。サト」


 ぴょこん、と結ってある色素の薄い髪が揺れた。

やっぱり、怜のおかげなんだと思わずにはいられなかった。



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