フォーチュンクッキー
 挑発的に声を張って、周囲の視線がオレと怜に集まり始めた。


 松永さん──バスケ部マネージャーのふわふわ娘で、おそらく唯一、怜のあまり得意としない人物だ。

彼女は怜に片思い中だけど、二人はそんなことを感じさせない。


それがいいのか悪いのかはわからないけど。


 ゆっくりボールをついて、注目されている照れもあるのか、小首を傾げながらやってきた。

「なんで松永なんだよ?」


 怜は、オレやサトには敏感だけど、彼女に対しては相当鈍感なのか。

いつもされているみたいに、今度はオレがすこし小ばかにするように「ふふ」と笑ってやる。


「さて、ね」

 とぼけたように、再びヒラリと怜の手からボールを奪い取ってゴールへと手首を返した。

でも、二度目はないとばかりに、怜は身をねじりながら長い腕を伸ばしていた。


 あえなくオレの投げたボールは阻まれたのだけれど。

すーすーと冷える体育館と走って息苦しいこの感覚が、今のオレには気を紛らわす手段でもあった。








 昼も、相変わらずサトと怜が一緒だ。

仏頂面を直してくれはしなかったが、オレが席を立つと怜が一生懸命なだめてくれているようだった。


後姿は昔のままで、なんだかオレだけ取り残されたような気もしていたんだ。


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