フォーチュンクッキー
 まさに、決戦の放課後。

心臓は高鳴る一方で、やけに北風の吹く音が耳に障る。


「じゃあねっ」


 まったくオレの顔をみずに教室を慌しく出て行ったサトは、相当怒っているのだろう。


「じゃあ、がんばれよ、太一」

 怜も早々に、追いかけるように去ってしまった。

うるさいくらいの帰り道が恋しくなるほど、両の手のひらは汗でビッショリだった。


 別に逃げるわけじゃないけど、足は自然と店にむかっていた。

なんとかして落ち着きたかったのかもしれない。


 ゆっくりとした足取りで慣れた道を進んでいたときだ。


「太一!」

 商店街を抜けたと同時に、ばったりマスターにはちあった。

がさがさと歩くたびに音がするほど、おそらく買出しの袋を抱えていた。


「ちょうどいい、荷物もってくれよ」

 目尻に優しいシワを作り、売り上げとは不似合いな量の荷物を渡してきた。



「なにをこんなに買ったんですか……」

 呆れたようにいうと、なんにも悪怯れた様子もなく笑うマスター。


「豆も鮮度が大事だしな。
なにより、もうすぐ商店街のクリスマスセールが始まるんだよ」


 商店街のイベントは、小さなあの喫茶店のかきいれどきでもある。


 あまりがっつくようなマスターではないから、たまに経営者ということを忘れてるんじゃないかと疑っていた。

そんなことに、なんだか笑えてきた。


「ま、お前が一人いなくても回るような店だけど」

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