フォーチュンクッキー
 奥の部屋から、エプロンの肩を直しながら笑顔を携えてやった来る。

チビ助は安堵したようだけど、反対にオレが緊張してしまう。


「未来ちゃんにお願いがあるんだ」

 カウンターを出てチビ助の前にすこし屈むと、何かを握らせた。


「お、お金っ?」

 手のひらとマスターを交互に見比べるその慌てっぷり。

さすがにオレも身を乗り出したときだ。


「おつかい頼まれてくれないかな?」

「え、あ……はい…」


 ゆっくりとしたトーンに釣られるように返事をしていたチビ助。

「マスター、さっき……」

 買出しいったじゃないですか、って続けようとすると、今度はオレのほうに向いて笑う。


「場所、わからないだろうから案内してやってくれよ?」


 …要するに店から出ろってってコトだ。

さすがに連日もめるのは、オレとしても気にかかっていた。


深いため息をつくと、つけ損なったエプロンを台所の下に投げ入れてカウンターを出る。

座席にかけていたコートを着こんで、すでにガラスも曇り始めた扉を開いた。



「ほら、いくぞ」

 振り向いたそこには、驚いた顔のチビ助とその向こうでニヤニヤ笑うマスター。


「あ、はいっ」

 小走りにやってくるその姿が……とても嬉しかった。


「じゃあ、イッテキマース」

 わざとらしく挨拶をして、ベルが鳴るように扉から手を離した。

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