フォーチュンクッキー
 すでに茜色の空の下、寒そうに行きかう人並みを逆らうようにオレたちは歩いた。

隣で緊張気味のチビ助にオレまでつられてしまって、なかなか声が出なかった。


「寒いか?」

 ようやくでた言葉がそれだけで、いいたいことはいえない自分が情けない。


「だっ、だいじょうぶですっ」

 白い息をふわふわと吐き出しながら、力んだ口調に一人でほくほくとチビ助の声を受け止める。


 ささいなチビ助の言葉がすら愛しい。


 さほど喫茶店とは離れていない、商店街の一本路地を入った仕入先。

店長は目をまん丸にしてたけど、「買い忘れがありました」とわざとらしく付け加えた。

それでも驚いたままの姿を残して、オレたちは来た道を戻る。


 伸びた影も、もうすぐ暗い空に覆われて消えてしまう。

隣にいることは、息遣いと目で見ないとわからなくなるんだ。


 今、いえ。

そう心で叫んでいるのに、どうしても声が出なかった。


 なんていえばいいんだ。

どうしたって、チビ助の考え込んでる横顔を見てたらなにもいえなくなるのに。



 結局、怜に馬鹿にされるんだ。


……なんて落ち込んでいた。




「太一さん……」


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