フォーチュンクッキー
 無垢という残酷な言葉は、あたしの意識を吹き飛ばそうとした。

「り、凛子……っ!」

 さすがのお父さんも声を荒げる。

でも、お父さんの腕の中でか弱い身体が紅く染まるほど哀しむ姿に、それ以上口を開かなかった。


「…ごめんね、凛子さん……」

 それしか、いえない。

数歩後ずさりをして、あたしはぼやける視界を振り切るように走り出した。


「未来っ!!」

 お父さんの呼ぶ声も、今は苦しいだけだった。



 お母さんは、心の病気。

あたしには笑っていた顔しかしなかったのに、ある日突然、涙を流していた。


「もう、『お母さん』疲れちゃったの」

 床にへたり込み、顔を隠すそのお母さんに、あたしは背中を撫でてあげていた。


 毎日スーツを着て仕事に出かけていたお父さんも、そんな状態が1ヶ月ほど続けば、疲れきっていた。


 どこかの近所のオバサンが言っていた。


「病院に入院させなさいよ。…夜も眠れないわ」


 あたしのお母さんなのに。

けど、お父さんもまともに眠れず、夏なのに真っ青な顔をしてお母さんの説得と仕事をしていた。


決して声を荒げることはなく、弱音も吐かなかった。


だから、あたしはお父さんの言葉に頷いた。



「未来、ごめんね。お母さんは……ちょっと、病院で休憩することになった」




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