フォーチュンクッキー
 息苦しいほど走って、走って。

「はぁ……はあ…っ」


 感情なんか忘れるくらい、もっと走って、走って―……。



 追いかけてくれないお父さん。

 あたしを認識してくれないお母さん。



 もう、誰も側にいてくれないんだ。



「……っふ…ぇ…」

 体中と目だけは、真夏のように熱い。

けど、絶え絶えな息は凍えるほど冷たい。


ふらふらになった足は、ようやく真っ暗な喫茶店の前で立ち止まった。


 苦しい、苦しい―……。


「…ごっほ…!……っく、……っはぁ…!」

 悲しいのでいっぱいなのに全速力で走り、呼吸も辛い。

なのに、誰も止まってくれない。


あたしと一緒には、誰も止まってくれないんだ。



「…ひぃ…ん……っ」

 目の前には、きれいな文字の張り紙だけ。

ドアノブに手をかけてみるも、当然開くはずもない。


 あたしの、最後の居場所。

それさえも今は受け入れてくれない。


ズズズ、とずり下がり、涙を見られないように扉に額を当てたまま座り込んだ。


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