フォーチュンクッキー
 ふんわりと伝わる背中のぬくもり。

長い腕が、あたしの身体をすっぽり包んだ。


 温かい吐息が、柔らかな髪が……あたしの耳元をくすぐる。



「お前を、一人にしない」

 優しい声は、すこし苦い香りと共に胸の奥まで刺激する。

さらにギュッとこもった手の力に、あたしは信じられなかった。



「太一、さん……?」

 目の前に広がる影絵はあたしの背後から覆いかぶさっていて、それはどこかの絵画のよう。

実際そういう状態なのだろうけど、この状況に追いつかなくてあたしは瞬きすら忘れていた。


「泣けよ。……ずっと、側にいてやる」


 まるで太一さんが泣いてるみたいに、か細い声。


 ずるい、ずるい。
みんな、自分のことばっかり。


そして、あたしも自分のことばっかり。


「なんで……っ!」

 ようやく出た言葉は本音とは裏腹で、嬉しいはずなのに悔しい。


だって、それは叶わないのだから。


「お前は、一人じゃない」


 より強く回される腕に、あたしはぎゅっと目を瞑りそのぬくもりを振り払った。








「嘘つき……!!」




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