フォーチュンクッキー
 あたしはとことんカワイクない。

そんな優しい太一さんの言葉も、ひねくれた自分の狭い心で傷つけて。


 とにかく逃げ出したくて、無言で勢いよく立ち上がった。

けれど、その前に手首に跡が残るんじゃないかと思うくらい、強く引っ張られてしまった。



「嘘なんかじゃない!!」


 引き戻されるように背中からもう一度強く抱きしめられ、あたしは力の入れ方を忘れてしまった。


切羽詰った太一さんの声も、まるで深い海にいるみたく、遠くで聞こえている気分。



「…留学なんか、やめてやる」


 ドキン、と心臓が傷んだ。

焦点すら合わないあたしの瞳には、熱い涙が溢れるだけ。


太一さんの言葉を否定しなくちゃいけないのに、喉の奥が熱くて声が出なかった。



「こうして……たった一人で傷ついて泣かれるくらいだったら、留学なんてしない」


 折角送り出す準備をしていたのに…。

…―ううん、本当は準備なんて出来ていない。


頭でそうしようと、必死に言い聞かせてた。



「オレが卒業したら、働けばいい。なんとか、高校にだって行かせてやる」


 太一さんの精一杯な言葉が、痛んだ胸にしみる。

コドモなあたしでも、その『一人』として選ぶ権利をくれた。


その意味が、ようやくわかった気がした。



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