フォーチュンクッキー
 少し間があってから、チビ助は虚ろな目で何度も瞬きをした。

そして意を決したように、寒さに負けずぷっくりした唇をわずかに動かした。


「り、凛子さんが……」

「……凛子?」

 聞き返したオレに、手のひらで涙をすくうように拭うとぎゅっと肩をすぼませた。


「あたしの、お母さんです」

 ああ、そういえば……そんなこと言っていたっけ。

確か、精神病で入院しているとか。


 オレも以前、一度だけ話したこともある。


 あれは……そう。

サトがオレを好きだと言い出したときに、チビ助に見られて。


 追いかけた先が、チビ助の母親のいる病院だった。


「凛子さん……今でも、たまにあったんだけど…っ!でも、あたし……っ!」

「ちょ、ちょっと待てって!一体どうしたんだよ?
母親に会ったってことか?だったら……」

 うっ、と再びぽろぽろと涙を溢れさせるチビ助に、オレはしどろもどろながら頭を悩ませる。


「…あ、あたしのこと…わからないんです。……体調がいいと、お友達だっていって笑ってくれるけど……」

「………」

 チビ助は胸に手を当てて、息を整えながら話す。


 これが聞き終わるまで。

と、オレも必死に、どうにもこの上手に閉じ込めたくなる両手をしまいこんでいた。



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