フォーチュンクッキー
 涙を堪えるようにそっと瞼を閉じる表情は、なんともいえないものだった。


 いつも実年齢より下に見えてしまうあどけなさは、今はどこかへ。

目の前で涙を揺らす姿は、怖いくらい大人びて見えてしまう。


「今日みたいな日は……あたしのこと、なんにも覚えていなくて……。
凛子さんには、後にも先にも、お父さんしかいないんです」



 それは、目の前にいるチビ助にもいえることではないのだろうか。

ずっとあの小さな家で暮らしてきた、この穏やかな父子。


「あたしは、お母さんの娘だもん……っ!心配するのは、お父さんだけじゃない!
なのに、なんで……っ?あたしばっかり、ひとりぼっち……」


 真っ赤な顔をした目の前の小さな女の子は、やっぱり力ないコドモ。

オレは、無意識に口を開いていた。


「……一人に、させないから」


 一瞬、自分で何を言っているかわからなかった。

だからハッとしたチビ助の表情で、オレも気づかされる。


 でもチビ助はくるりとした睫を静かに伏せて、ふっと肩を落とす。


「わかってます、太一さんの優しさ。……でも……」


 その先の言葉が、痛いくらいわかる。


 『嘘』だから?
だったら―……


「さっきも言っただろ。………留学やめる」


 その一言に、チビ助もガタンと椅子を蹴るように立ち上がる。


「な、なに言ってるんですか…!?」

「おまえをこのままにしておけない!」


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